No.47 : Suggestion


 クラピカとレオリオを乗せた飛行船が空の彼方へ消えていく。完全に姿が見えなくなるまで手を振り続けたは、ようやくそれを切り上げると、視線をゴンたちに下ろした。
「あっという間に三人になっちゃったね」
ゴンが言った。念願叶って五人が揃ったものの、共に過ごせた時間はあまりに短い。しかしそのぶん、次に再会する日への期待が高まるというものだ。
「ねぇ、これからどうする?」
「んー、せっかくだから観光がてらゴハンでも」
が上機嫌でゴンと語らっていると突然、両の頬に圧迫感を覚えた。
「さっき食っただろ。それより特訓だ、特訓」
呆れた顔のキルアが、の頬を両手で挟み込んでいた。

 頭に浮かんでいたパドキア名物の数々が、音を立てて崩れ去っていく。ショックを受けているの横で、ゴンが首を傾げた。
「特訓? 遊ぶんじゃないの?」
すると、あくまで呆れているだけだったキルアの顔に、ついに青筋が浮かぶ。
「お前なぁ……」
キルアはを解放すると、今度はゴンの真正面を位置どり、至近距離から笑顔で凄んだ。
「今の実力でヒソカを一発でも殴れると思うか?」
痛いところを突かれて言葉も出ないゴン。
「いいか。わかりやすく言うと、これがヒソカ。これがハンゾーな」
キルアは落ちていた木の棒を使って、地面に二人の似顔絵を描いてみせた。どちらもシンプルながら、良く特徴を捉えている。がキルアの意外な特技に感心していると、二人の顔の間に十センチほどの線が引かれた。
「ヒソカとハンゾーの力の差をこれくらいだとすると、お前との差は――」
キルアはゴンの顔をちらりと見た後、棒を地面に付けたまま、その場からゆっくり遠ざかり始めた。土の削れる音が徐々に小さくなっていく。空き地いっぱいに距離を取り、フェンスの手前でようやく移動を止めたキルアは、棒で小さく地面を叩いた。
「ここ! かなりおまけでな!」
大声で叫ばねば声が届かないほどの距離。ゴンはそのあまりの過小評価に頬を膨らませた。

 キルアがこちらに戻ってくるのをそわそわしながら待っていたは、ついに気になっていたことを切り出した。
「あ、あの、は?」
するとキルアは少し考え込んだ後、至極真面目な顔で口を開いた。
「んー、こんな所でフェンス越えはちょっとなー」
薄々勘付いてはいたが、改めて対面で言われるとなかなかくるものがある。が痛む胸を押さえながらショックに打ちひしがれていると、頭の上にポンと手が置かれた。
「だからこそ修行するんだろ」
そんなキルアの言葉にが納得しかけた時。
「そう言うキルアはどこなのさ」
不服な態度を引きずったゴンが、むくれつらで二人の間に割り込んだ。するとキルアは小さく唸りつつ、ハンゾーよりも一メートルほどゴン寄りに印をつける。
「まぁ、ここだろうな」
二人へ手の届きそうな範囲には居るが、拮抗するほどではない強さ。自分との格差に少しだけ引っかかりつつも、妙に納得してしまう位置だ。感心のあまり、ゴンの怒りはすっかりどこかへ消えてしまった。
「へー、ハンゾーの方が強いんだ」
ゴンが思ったままを口にすると、キルアがムッとした顔で振り向いた。
「なんだよ」
「……やっぱりキルアはすごいなぁ。オレ、自分と相手の力の差なんて測れないよ」
そう言ってゴンは瞳を輝かせた。先ほどの腹いせに冷やかしで返されるのだとばかり思っていたキルアは、想定外の言葉に頬を染め、居心地悪そうに視線を逸らす。
「バーカ。オレだってこんなの適当だよ」
これは誰もが持っているなんとなくの感覚で、経験を積んだことにより少しだけ精度が上がったに過ぎないのだとキルアは続けた。

 ゴンとが納得したのを確認すると、キルアは持っていた木の棒を捨て、空いた手を腰に当てた。
「ま、なんにせよヒソカは強い。並大抵の事じゃ、半年で一矢報いるのは無理だ」
キルアの言葉に、ゴンは改めてヒソカと対峙した時のことを思い返す。すると、先ほどキルアが描いた強さの概要図はあながち間違いではない気がした。
「二人とも、金はあるか?」
突然の話題転換にゴンとの表情が凍る。
「実は結構やばい」
も……」
まさかここまで長期間の外出になるとは想定していなかったため、二人の手持ちの金は底を尽きかけていた。
「オレもあんま持ってない。そこで金儲けと特訓、一石二鳥の場所がある」
キルアは二人の興味に満ちた視線を受けながら、得意げに口の端を上げた。

さっそく出発。