No.43 : Guest


 突然、急用ができたと言って駆けて行ったキキョウたちの後ろ姿を見送り、四人は顔を見合わせた。
「……なぁ。あいつらについて行かねぇか」
レオリオが真剣な顔で言った。たしかに今から無理やりにでも後を追えば、キルアのいる本邸までたどり着けるかもしれない。しかしゴンはあまり気乗りしない様子で、眉尻を下げたままカナリアへ視線を落とした。
「そうしたいのは山々なんだけど、後で彼女が責任を取らされる気がするから……」
嘘をついてまで追い返したかった人間を敷地内にみすみす入れてしまったとあれば、門番に手酷い仕置きが待っていてもおかしくない。最初は強引に侵入しようとしていたゴンも、雇い主の使用人への扱いを目の当たりにして、考えを改めたようだった。
 四人が途方に暮れかけていたとき、それまでずっと閉じられていたカナリアの瞳がゆっくりと開いた。そして彼女は撃たれた箇所を気遣いつつ、自分の力で起き上がった。
「……心配には及びません。私が執事室まで案内します」

 先導を切るカナリアの後ろを追いながら、四人は執事室へと向かっていた。移動距離の長さに文句を垂れるレオリオをたしなめつつ夜通し歩き続けた一行は、ようやく屋敷が視界に入る地点までたどり着いたのだった。
「げぇ。まだ結構距離あるなぁ……」
山二つ超えた先に微かに見える屋敷を眺めながら、レオリオがぼやいた。

 カナリアの話によると、彼女がゴンたちを執事室へ導いていることは既にキキョウの耳に入っているらしい。そして、この行いによって自分の身に危険が及ぶことも覚悟の上なのだと彼女は言った。
 彼女は雇い主の命令に背いてまで、キルアの望みを叶えようと動いている。まだ出会って数時間だが、四人の中には既に彼女に対する仲間意識が生まれていた。

 あれからどれくらいの時間が経っただろうか。辺りに満ちていた夜の闇は、いつしか朝靄に変わっていた。
 木々の間に小さな明かりが見えた瞬間、四人の顔から疲れの色が吹き飛んだ。さらに進むと、木組みに白壁の豪邸が姿を現す。家の前では、ゴンたちの来訪を出迎えるように黒服の男らが横一列で勢揃いしていた。
「いらっしゃいませ」
中央の男がよく通る声でそう言って会釈をすると、他の男たちも寸分違わぬ動きでそれに倣う。そのあまりの迫力にが小さく肩を震わせたのをクラピカは見逃さなかった。

 室内に招き入れられてまず最初に行われたことは、ゴンとの怪我の手当てであった。執事たちは慣れた手つきで次々に処置を施していき、数ヶ所あった怪我の治療はあっという間に完了してしまった。
「ありがとうごさいます」
が礼を口にすると、長髪を後ろで束ねた執事は何も言わずに立ち上がり、元の配置に戻って行った。

 少しすると、ゴンの処置も終わったようだった。世話をしていた短髪の執事はすぐに持ち場へ戻っていく。すると、この中で一番位の高そうな、眼鏡を掛けた執事が再び小さく頭を下げた。
「数々の無礼をお許しください。キキョウ様から連絡があり、あなた方を正式な客人として迎え入れるよう申し付けられました」
どうやらもう追い返されるようなことは無いらしい。家に入る段階からずっと緊張の中にいたは、ようやく警戒を解き、脱力した体をゆったりと背もたれに預けた。

 改めて周りを見回した四人は、応接室のあまりの広さと格調高さに感嘆の息を漏らした。しかし、これだけの立派な作りでありながら、あくまでここは執事用の住まい。家族用の屋敷は別にあるらしい。ゾルディック家に来てからもう何度この類の驚きを味わったかわからない。
「さ、ごゆっくりお寛ぎください」
ゴトーという名前らしい、眼鏡姿の執事がそう言うと、目の前のテーブルに人数分の茶がもてなされた。しかし四人は手をつけようとはせず、レオリオが申し訳なさそうに口を開く。
「気持ちはありがたいんだが、オレたちはキルアに会いに来た。できれば早くキルアの元へ案内してくれねぇか」
するとゴトーは静かに目を伏せた。
「その必要はございません。キルア様みずからこちらへ向かっておいでですから」
ゴトーの言葉を聞いた四人の表情がぱっと明るくなる。はようやくキルアに会えるのだという喜びで、胸が熱く、そして鼓動が早くなっていくのを感じた。
「良かったなぁゴン、
そう言って目配せをしてくるレオリオ自身の顔からも喜びが溢れ出ている。四人の間にしばらく和やかな時間が流れた。

もうすぐ会える。