No.19 : Secret


 クラピカの口から語られたのは、あまりに壮絶な過去だった。彼の最終目的は、一族を虐殺した幻影旅団への復讐と、奪われた同胞たちの緋の目の奪還。それを成し得るための手段として、賞金首ハンターになる必要があるという。
 は若干の後悔を感じていた。自分の何気ない問いで、クラピカの古傷を抉ってしまったのではないかという罪悪感。それに両親や友人に囲まれて何不自由なく育った自分が彼の野望に対して言及する資格などない気がして、はしばらく口を開けなかった。
「嫌なら話していない。が気に病むことじゃない」
クラピカはそう言って、の肩に優しく手を置いた。先ほど復讐を語っていた時とは打って変わって、優しい声色だった。はハッとして、頭を下げた。
「話してくれて、ありがとう」

 そんなを見て、クラピカは胸の奥のどす黒いもやがいつの間にか晴れていることに気づいた。いつもそうだ、といると、つい毒気を抜かれる。
「それより。のことも聞いても?」
気が抜けたついでにクラピカは、ふと湧いた疑問を投げかけてみた。するとは勢いよく顔を上げたかと思うと、ほんのり頬を赤らめながら、再び視線を落とした。
「わ、は食べることが好きだから美食ハンターに、っていう……安直な、理由」
なんだかクラピカの後に話すと恥ずかしいね、と続けてはまた困ったように笑った。

 クラピカには、が眩しかった。復讐に生き、己を破滅に追い込むような真似しかできない自分とは違い、彼女はただひたすら純粋に自身の夢を追いかけている。未来がある。だからこんな自分と比較して、大事な夢を自ら卑下するようなことはして欲しくないと思った。
「この年で……いや、生涯をかけようとも、これだけの熱意を持って打ち込める何かを見つけられる者はそういるものじゃない。立派な理由だと、私は思う」
野生動物を仕留める時の目つきは只者じゃないらしいからな、と続けてクラピカは笑った。それをなぜ知っているのかとが聞くと、トリックタワーで部屋に篭って50時間過ごさなければならなくなった際、キルアがの話をよくしていたのだとクラピカは言った。
 はほんの少しの嬉しさと、他にも何か暴露されてしまったのではないかという恥ずかしさで頬が熱を持つのを感じた。

 魚の両面がちょうど香ばしく焼けたところで、は串を地面から抜き、一本をクラピカへ手渡した。
「ありがとう」
クラピカはそう言うと、何度か吹き冷ましてからゆっくりと食べ始めた。もそれに続いてお腹から頬張る。とれたての川の恵みは、やはり普段食べているそれより何倍も美味しい。二人はあっという間に骨だけを残して――クラピカは一尾、は四尾を――食べ尽くしてしまった。
「ごちそうさまでした」
そう言って両手を合わせるに、クラピカも倣う。

「……そうだ、。私と組まないか?」
突然、クラピカが真剣な顔で言った。は後片付けをしていた手を止め、弾かれたように顔を上げた。
「二人で行動した方が戦術の幅も広がるし何かと便利だ。まぁ、がよければの話だが」
そうクラピカは続けた。選択権はに委ねている形だが、内心、十中八九受け入れられるだろうとクラピカは考えていた。

 しかしは悲しげな顔をして首を横に振る。クラピカは予想外の返事に一瞬目を見開きつつも、の次の言葉を待った。
「ごめんなさい。今回の試験は自分一人の力で頑張ってみようと思うんだ」
は足元に視線をさまよわせながらそう言った。クラピカは決して自分と目を合わせようとしない彼女の様子に疑問を持ったが、そのことには触れず、ゆっくりと頷く。
「……そうか」
「でも誘ってくれて嬉しかった。ありがとう」
そう言っては頭を下げた。何かを堪えているような、苦しげな声だった。

彼には言えない。