No.17 : Promise


 長かった第三次試験が終わり、過酷な三日間を制した二十五名の受験者たちは、塔の外で久しぶりの陽の光を味わった。
 次の試験を行うにあたり、タワーをクリアした順に一枚ずつくじを引くことになった。カートに乗せて運ばれてきた箱の中に、数字の書かれたカードが入っているらしい。
 ざわめきの中、まずは一番手で脱出したヒソカがくじを引いた。次にギタラクル。彼より少し遅れて大部屋に出たは三番だ。
「そんなに早くクリアしてたなんてすごいや!」
「あはは……同行者のおかげだよ……」
試練の九割九分をギタラクルに助けてもらったには、ゴンのキラキラとした羨望の眼差しが痛かった。きっと彼が居なければ、最初の部屋で無残に串刺しになっていただろう。は数々の恐ろしいトラップを思い出し、身震いした。

 カードには片面にシールが貼ってあり、引いた時点ではまだ番号の確認ができないようになっていた。全員が引き終わると、三次試験の試験官、リッポーの合図とともに皆が一斉にそれを剥がす。ある者は驚きの声を漏らし、ある者は生唾を飲み込んだ。

 四次試験の内容は狩りだった。そして狩りの対象は、各々が胸に付けているナンバープレート。先ほど引いたカードに書かれている番号のプレートと自分のプレートは三点、それ以外は全て一点が割り振られており、七日間のうちに計六点分のプレートを集められれば合格となる。

 はカードの番号を確認した瞬間、言葉を失った。手足の先から力が抜けていくのを感じる。鉛のように重たくなった体をなんとか船内の壁際まで運ぶと、はその場にズルズルと座り込んだ。この船に乗って、次の試験会場のゼビル島という無人島まで移動するらしい。
「よっ」
の目の前に影がかかった。ゆっくりと顔を上げると、キルアが右手を上げて立っていた。
「隣いいか?」
彼にしてはやけに遠慮がちな問いだった。が小さく頷くと、彼は右隣に座った。

 二人はしばらく横並びに座ったまま、波の音を聞いていた。先ほどまでずっと薄暗い閉鎖空間にいたこともあり、暖かな日差しと潮風が心地いい。
「……なぁ」
キルアがポツリと切り出した。
「ターゲット、誰だった?」
は先ほど確認した番号を思い出した。そして顔を隠すかのように膝に押しつけ、くぐもった声で「ひみつ」と答えた。
「なんだそれ。ずりー」
キルアが不満げな声を上げた。少し冷たすぎただろうかと不安になったは、とっさに顔を上げて付け足した。
「安心して。キルアじゃないから」
するとキルアは小さく吹き出した後、いたずらっぽい笑みを浮かべての顔を覗き込んだ。
「安心もなにも、そもそもお前にとられる心配なんかしてないもんね〜」
キルアの言葉には何の反応も示さない。少し調子に乗りすぎたか、とキルアは慌ててに向き直った。
「冗談だよ。お前がつれないこと言うから仕返し」
それでもは何も言わない。しかし表情から察するに、怒っているわけではないようだった。
「ま、言いたくないならいいけど」
キルアはそう言って頭の後ろで手を組むと、ゆったりと船体にもたれかかり、目を閉じた。それを見たも同じように、船体に体を預ける。そのまま二人は島に到着するまで、黙って船の揺れに身を任せていた。

 島に着くと、添乗員の女性が試験内容の追加説明を始めた。六点分のプレートを集めるだけではまだ不十分で、七日後にここへ戻ってきて初めて合格となること。島への上陸は、それぞれ二分の間隔を空けて、タワーの脱出順に行うこと。
 例によっての順番はすぐにやってきた。ギタラクルが船を降りていったのを確認したは、意を決して立ち上がる。しかし、一歩踏み出したところで突然後ろから手を引かれた。
「オレのターゲットも別のヤツだから」
振り向くと、真剣な顔をしたキルアと目が合った。
「うん」
息を吐くようにすんなり出てきた返事だったが、は心の中でこれ以上ないくらいにホッとしていた。
「絶対死ぬなよ」
「うん」
たまたま試験内容に恵まれていた三次試験と違い、今度は側で守ってくれる者などいない。それどころか、周り全てが敵になり得る。
「……キルアも」
「おー」
そう言ってキルアが右の拳を上げてみせたのを確認すると、は満足げに笑って踵を返した。
 わざわざこんな確認などしなくても、キルアはきっと余裕でプレートを集め切るだろう。しかし、一方的に心配されるだけの存在でいるのは嫌だった。は添乗員の挨拶を背に受けながら、決意新たに島への一歩を踏み出した。

二人の約束。