No.24 : Negotiation


 がスタート地点に辿り着いたのは、合格者たちを乗せた船が出航して少し経ってからのことだった。当然の事ながら、そこにゴンたちの姿はない。しかしその代わり、不合格者の保護と島の後片付けが残っているのか、ハンター協会の者と思われる黒服の男たちが散見された。

「すみません」
は一番近くにいた、何やら記録を取っている男に声をかけた。男は作業の手を止めて顔を上げると、なんの驚きもなくの次の言葉を待った。発信機によってこちらに向かっていることは既に把握済みだったのだろう。は意を決して続けた。
「受験番号400番のといいます。最終試験会場の場所を教えてもらえませんか」
「えーと……」
男はの想定外の申し出に怪訝な表情を浮かべた。しかし独断で突っぱねるほどの決定権は持っていないようで、少し待つように言うと、後ろを向いてインカム越しにどこかと通信を始めた。

 待っている間、は気が気ではなかった。なんの連絡手段も持たない今の状況で解散となると、これが皆との今生の別れにも成りうる。は爪が食い込むほど強く拳を握りしめた。

「――さま」
通話が終わったようで、男はに向き直った。
「私たちもこれから作業が完了次第、会場へ向かう予定です。それに同行するだけであれば可能とのことでした。ただし受験者との接触、および試験内容の観覧はできません」
それでもよろしいなら、と男は続けた。男の言葉には大きく瞬きをした。望んでいたことだったが、いざ承諾されるとなると驚きが喜びを上回る。こんなワガママがあっさりと許可されていいのだろうかとは逆に心配になった。しかしそれでも、与えられたチャンスは喜んで受け取ることにする。

「ちなみに、二次試験官のメンチ様が会長に交渉してくださったそうですよ」
男はそう言って口角を上げた。最初はいきなり何を言い出すんだと警戒していた彼も、メンチのお墨付きということですっかりを認めたようだった。
「そうだったんですね。……取り次いでくださってありがとうございました」
感謝の言葉とともに、は深く深く頭を下げた。もし彼がの要求を揉み消していたら、ゴンたちとの繋がりはここで途切れていたかもしれない。

 は喜びのあまり飛び跳ねたくなるのを必死に抑え込み、協会員の作業が完了するのを今か今かと待った。

 黒服の男たちとの移動は決して楽しいものではなかったが、特に苦痛というわけでもなかった。船から飛行船に乗り換え、ただひたすらに目的地を目指す。たちが試験会場のホテルへ到着した頃には、すっかり日が暮れてしまっていた。

 ハンター協会は最終試験のためにホテル全体を貸し切っており、余った部屋にも宿泊させてもらえることとなった。ただし受験者との接触がないよう、部屋からは出ないという条件付きで。
 その日は、疲労と体内に残っている微量の毒のせいからか、いつの間にかベッドに倒れこむようにして寝てしまっていた。

 次の日、は日の出とともに目を覚ました。シャワーや食事を済ませると、途端にやることがなくなってしまう。
 試験の内容がどうにも気になるは、部屋の中を行ったり来たり落ち着きなく過ごした。やけに時計の進みが遅く感じる一日だった。

 キルアが失格になったという知らせがのもとへ届いたのは、その日の夜のことだった。それと同時に、ハンゾーとの試合でゴンが失神し、未だ目覚めていないとの情報も合わせて伝えられる。既に部外者であるに試験の状況が逐一知らされるわけもなく、失格者確定により最終試験終了という段階になってようやく連絡が入ったのだった。

 突然浴びせられた情報量の多さに気持ちの整理もつかないまま、は大人しく協会員のあとに続く。向かった先は、ゴンの部屋だった。
 ゴンは左腕に包帯を巻かれ、ゆったりとした大きなベッドに寝かされていた。規則正しく上下する彼の胸を確認し、は大きく息を吐く。道中聞いた話では、少なくとも明日の朝までは目を覚まさないだろうとのことだった。
「私はここで失礼致します。様はどうなされますか」
ドアの前で振り返った協会員の男性が、淡々とした口調で問うた。が再度、何気なくゴンに視線を向けると、ベッドの横に来客用の椅子が目に入る。一瞬で意思は固まった。
「ここに残ります。案内してくださってありがとうございました」
そう言って頭を下げると、しばらくしてからドアの閉まる音が聞こえた。そして部屋は静寂に包まれた。

試験の裏側。