No.22 : Separation


 朝が来た。第四次試験の終了を告げる汽笛が島中に鳴り響き、これから一時間の間に六点分のプレートを持ってスタート地点に戻るようアナウンスが入った。
「さてと。オレは受付に戻るぜ」
身支度を済ませたポックルが洞窟の外を見据えて言った。
も行く!」
間髪入れずが叫んだ。わざわざ自力で戻らなくても、ここで大人しく待っていればすぐにハンター協会の救助が入るだろうに、はそのシステムを利用する気などさらさらないようだ。
「そうか。そこまで距離はないけど、助けはいるかい?」
ポックルはそう言ってに向き直る。毒矢を打ち込んでしまった負い目からの言葉だった。
 まだ毒が抜けきる時間ではない。その証拠に、一人の力で立ち上がったの足にはふらつきが見えた。

 しかし、は首を横に振った。
「自分の試験には自分でケリをつけたいから」
強い光を宿した瞳が、ポックルのそれをしっかりと捉えて離さない。出会ってから初めて見る表情だった。ポックルはハッと我に帰り、口を開いた。
「……昨日の話の続きだ。運は無いかもしれないが、アンタは何か持ってる気がする。きっと来年は受かると思うぜ」
同情でもお世辞でもなく、それはポックルの心からの賛辞だった。いくら彼女の合格の芽を摘んだのが自分だと言っても、ここまで肩入れしたくなるなんてどうかしている。
「ありがとう。やっぱりポックルさんは優しいよ」
先ほどの鋭い眼光はどこへやら、はいつもの柔らかい笑みを浮かべていた。

 六点分のプレートを集め切った受験者たちがスタート地点に続々と姿を見せ始めた。最初に現れたのはトリックタワー同様、またもやヒソカ。そしてポックル、キルア、ギタラクル、ボドロ、ハンゾーと続くうちに、猶予時間の終了が迫る。――添乗員のカラが受付を切り上げようとしたときだった。
「ゴン!」
キルアの声に、その場にいる全員の視線が高台へ集中する。そこには、たった今ここへたどり着いたばかりのゴン、クラピカ、レオリオの三人の姿があった。
 ゴンは集まった面々の中にキルアを見つけると、親指を立てて無言で結果を伝える。それを見たキルアも同様の合図を返し、二人はお互いに笑みを浮かべた。

「――以上、九名の方が第四次試験合格者でーす!」
カラの明るい声が船着場に響き渡った。そして彼女のアナウンスに促され、受験者たちは各々のタイミングで船に乗り込んでいく。しかしゴンたち四人はというと、なかなかその流れに乗れないでいた。
、大丈夫かなぁ」
ゴンが不安げな表情でチラチラと森の方を見ながら呟いた。のプレート事情を大方把握しているキルアも、姿が見えないとなるとなんだか落ち着かない。
「協会の救助が入るだろうから心配はいらないと思うが」
クラピカが努めて冷静な声で言った。半分、自分自身に言い聞かせているようでもあった。
「でもそれもプレートを持っていればの話だろ?」
レオリオがイライラしながら反論した。自分のターゲットだった女性受験者、ポンズの姿がどうにも重なるのだ。彼女にはゴンの慈悲でプレートを一枚置いてきたが、この過酷な試験で同じような義理人情を見せる者が他にもいるとは思えない。

 カラが時計を確認し、ついに早く乗船するようにと声をかけた。四人は後ろ髪を引かれる思いでタラップへ歩を進める。その足取りは鉛を背負っているかのごとく重い。念願の四次試験突破だったはずなのに、誰一人として喜びを語り合う気は起きなかった。

 やはりあのとき無理矢理にでも同行していたら、とキルアは後悔に奥歯を噛み締めた。あるいは、もしこうなるとわかっていたなら、せめて気の利いた別れの挨拶くらいできたかもしれないのに。
 次第に遠ざかっていくゼビル島。ただでさえ小さな島はみるみる水平線に飲まれていき、あっという間に海上から姿を消してしまった。

 クラピカは未だ何も見えない進行方向を見つめながら、次なる試験に想いを馳せていた。彼女が自分のチャンスを潰してまで後押ししてくれた道だ。もとより落ちる気などさらさらなかったが、いよいよ負けるわけにはいかなくなった。自分には、必ず合格しなければならない責任がある。クラピカは、もう会えるかもわからない彼女に向かって静かに誓いを立てたのだった。

 往路と同じ二時間の船旅を終えた受験者一行は飛行船に乗り換え、最終試験会場へと向かっていた。ネテロの話では、六時間ほど進んだところにハンター協会経営のホテルがあるらしい。到着次第、今日はそこで休息をとり、明日から最終試験が開始されるとのことだった。
 各自思い思いの待機時間を過ごしていた一行だったが、突然船内に流れたアナウンスにみな身を固くする。
――これより会長による面談を開始します。
 船内放送は番号を呼ばれた順に二階の第一応接室に来るよう告げると、さっそく呼び出しを開始した。最初に指名されたのは44番、ヒソカだった。

別れ、そして前進。