いつも一緒にいる人間が見慣れない格好をしている。先ほどのゴンとなんら変わりない状況のはずなのに、キルアはなぜだか落ち着かなかった。
 不自然だとか不快だとかそんなマイナスな感情はないものの、面と向かって姿を見ることに謎の拒否反応が起こるのだ。いつのまにか手のひらがじっとりと汗ばんでいる。

 キルアが仕方なく壁の染みに視線を這わせていると、隣から聞こえてくるレオリオの浮かれた声が妙に気になった。
「ほー……これはなかなか……」
見ると、顔の筋肉を緩ませながら上から下までじっくりと眺め倒している。自分とは何の関係もない光景だが、キルアにはどうにも面白くなかった。こめかみの辺りがひくひくと痙攣しているのがわかる。

 キルアは瞬時にオーラを絶つと、音もなくレオリオの膝裏に軽い蹴りを入れた。
「いでっ」
よろけたレオリオの声に噴き出しかけて、とっさにこらえる。そして怪訝な顔でキョロキョロし始めた彼の視線をやり過ごすと、ようやくキルアの心に平穏が訪れた。
 しかしそれも束の間。この後、文字どおり目を背けていた問題とむりやり対面させられたキルアは本日最大の動揺を味わうことになる。

(2022.03.09) ヨークシンにて。